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商会は港の近くにあったから、遠洋した貨物船が帰港するたび大勢の人々で、町はごった返していた。金貸屋で金を借りた船員たちが支払いをすませるため、商会の前に列ができるほどだ。
帳簿係が客たちの署名をたしかめ、金を受け取る。その金を金庫番が店の地下にある金庫室に運び、それがひと息ついたころ、受付係から客への貸出し催促の報せが入る。
下働きの男たちのなかで主人に認められたものは、帳簿や受付の仕事を任される。読み書きと算術はもちろんだが、重要なのが忠誠心だった。いくら賢くて従順でも、欲の深いものは手元の金に目が眩むことがある。横領した挙句、商会を逃亡する可能性が高い。
だからアリサの父親のように、所帯を持つことを半ば強制的にすすめられ、万が一、多額の不明金が出てしまったら、妻や子供をその代わりに人買いに売り飛ばすのだ。要するに人質である。血も涙もない商売だが、扱うものが金なのでどうしても信用だけでは成り立たない。
幸いにもアリサの父親は几帳面で欲のない男だったので、下働きをつづけることができた。一年、二年、三年とすぎていくうち、下働きの仕事も覚えてほとんどのことがこなせるようになる。
その反面、仕事ばかりで一日がすぎてしまい、以前のようにオレグと遊ぶような時間はまったくといってよいほどなかった。やがて、二人で出歩くには周囲の視線が気になる歳になってしまい、気がつけばお互いの顔を一日一度か二度、見るだけに終わってしまう。もちろんまともに話すこともない。
それでもアリサはよかった。
母親が言うとおり、下働きの娘と後継ぎ息子とではあまりにも不相応すぎる。小さな店ならいいが、金貸屋は莫大な利益が転がり込んでくる。ただ読み書きと算術ができるだけでは到底つとまらない。
ときおり貴族らしき人の使いも駆け込むことがあるから、彼らにみくびられないよう対等に渡り合えるだけの知識と話術も、主人に求められているぐらいである。
そして一番の問題は、金貸屋が忌み嫌われる商売ということだ。世間から白眼視されようが、それをものともしない精神力も必要になってくる。商売柄、上品さとは縁のない生活だったが、世間に気をとられるような迷いをもってしまうと、いつ誰につけ入れられてもおかしくない。
そんなさまざまなことを知っていくうちに、やはりオレグは後継ぎとしてふさわしいのだと、誰もが思うようになった。負けず嫌いで口も悪いが、あれぐらいでないと主人としてつとまらない。主人である父親もそれを承知しており、今では女主人である妻より、息子の肩をもつようになっていた。
きっと、オレグの妻になる人は、教養があって賢くて、立ち振る舞いが堂々としている女性だ。大都市に行けば大きな商会はたくさんあるし、教養があってもお金のない貧乏貴族たちもいる。ぜひ我が娘を――といって縁談を持ち込んでくるだろう。
まだ十三歳のアリサだったが、縁談のことを考えるとそう遠くない年頃でもあった。
一日の仕事をすませ、遅い夕食を母とともに台所でとる。先に母が自室にもどり、鍋と皿を片付けて、そろそろ就寝しようかというころ、台所に顔を出すものがあった。
「アリサ、ちょっといいか?」
手招きするオレグがいた。用心深く周囲を見て、またこちらへと手招きをする。
「あの……何でしょう、オレグ様」
「見せたいものがあるんだ」
「でも……」
エプロンの端をぎゅっと握り締める。二人きりでいるところを誰かに目撃されてしまえば、ただごとではすまされないだろう。
「いいから!」
強引に腕をとられ、表へと連れ出された。
心地よい海風が吹き、昼間に帰港した貨物船の船員たちが、家族や恋人たちと楽しそうに街を歩いているのが見えた。表の通りには小さな屋台がいくつも並んでいる。夜も更けてしまうと商店は閉まってしまうから、代わりに出てくるのが屋台だった。特に今日は帰港があったから、いつも以上に活気がある。
オレグはアリサの手をとったまま人目を気にすることなく、港を目指した。そして倉庫が立ち並ぶ一角にやってくると、波止場の前で腰を下ろす。目の前はすぐ海面だ。
「あの……」
申し訳ない気持ちで声をかけるアリサに、オレグは言った。
「言ったろ。これから面白いものがあるって。きっと驚くぞ」
「でも……」
「もし誰かに見られても、俺があとで話をつけてやる。気にするな」
気にするなと言われても……。
ここでひとりでもどるわけにもいかず。
どうしてついてきてしまったんだろう。
後悔の念にかられだしたアリサだったが、お腹に響くほど大きな音とともに、海面に反射する紅の輝きに心を奪われる。
月のない夜空に真っ赤な花が開く。次は黄色。その次は緑と、この世のものとは思えないその華やかな光景が次からつぎへと繰り広げられていく。
我を忘れそうだ。
日々の悩みごとやつらさを消し去ってくれる魔法のような光の花。
「すごいわ。こんなの信じられない……」
「だろう? 俺も今日初めて見たんだ。本で読んだことはあったが、花火がここまで美しいものだなんて知らなかった」
「花火?」
「そうさ。花咲く炎。あの海のずっと向こうにある国でつくられている。今日の積荷に花火があって、打ち上げる人も一緒に連れてきたらしい」
得意げにそう話すオレグに、アリサは素朴な疑問をぶつけた。
「どうしてオレグ様はご存知なのです?」
「昼間、店に来た客たちの雑談を立ち聞きしたのさ。これは面白そうだから、ぜったい見にいってやる、と決めたんだ」
「なぜあたしに?」
「ここんところ、ずっとまともに話してなかったろ? たまにはいいかな……と思っただけだ」
暗くてお互いの顔はよく見えなかったが、赤くなっているのはなんとなくわかった。彼の性格だから、こんなときこんな表情をするのだと、アリサは毎日見ているから知っている。
「ありがとうございます、オレグ様」
「いいさ。それにその言葉遣い、嫌いなんだ、俺」
「……」
「前は一緒に笑ったりしたのに、今はまるっきり主人と召使の関係だ。俺ってそんなに偉いのか? たかが金貸屋じゃないか。品性もなにもない」
「……」
アリサには答えることが出来ない。心のまま答えてしまえば、罪になるのだと知っていたから。
「こんな因果な商売で生活すると思うだけで、憂鬱になってくる。けど、親父は俺じゃないとだめだって言う。どうすればいい?」
「……」
「もうずっと前のことなるが、フォマーは帝都で学べとしきりに言ってくれたことがある。それはつまり、俺にはそれだけの価値があるってことか?」
「……」
「ならば生まれもった境遇じゃなく、自分の力で将来を決めてもいいんじゃないのか?」
「……」
「こんな港町に縛られたまま、一生をすごすなんてまっぴらだ。俺は恐れられ、嫌われ、それでも金が転がり込んでくるから、卑屈な連中に好かれてしまう将来だけか?」
「……」
「それはありえない。俺は俺自身が決めた道を進みたい。帝都に行って、自分の力をどこまでも試してみたいんだ」
アリサに語りかけるように、オレグは胸に秘めていたであろう思いを口にしていた。ただ聞いてほしかっただけなのかもしれないが、それを自分に教えてくれたのがとても嬉しい。
「はい。オレグ様ならきっとできます。あたし信じてますから」
「アリサ!」
抱きつかれてしまった。あまりにも突然のことだったから、それを拒む余裕がなかったほどだ。
「よかった。おまえならそう言ってくれると……」
「オレグ様……」
花火がまた一つ上がり、周囲を緑の光で照らす。
いつも距離をおいて顔を見るだけだったから、オレグの腕がこんな大きかったのだと改めて驚いた。背だってずいぶん伸びていたし、少し前までの少年らしさはどんどん失われていく。
それでも自分のことまで捨て去ったわけではなかった。
よかった……。
安堵するアリサだったが、その思いにとらわれている自分に愕然ともしていた。
いけない。
この人を好きになってはいけない。
だって、あたしはなんの取り柄もない下働きの娘なのだから。
そんなアリサの思いを読み取ったかのように、オレグは小さな声で言った。
「決めた。俺は職業軍人になってやる」
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帝都に行くことに反対するオレグの両親だったが、いつの日か息子の説得に折れてしまった。理由は単純で、職業軍人になって人脈を広げれば、そこから新たな顧客を生み出せるし、相手が相手だからかなり儲けになるのではないかという、彼の詭弁に心動かされたからだ。
所詮、金貸屋の主。儲けがからむと途端に、鷹揚になってしまう。さすが金貸屋の息子だけあり、そのへんの機微はよく心得ていた。
オレグがアリサとともに花火を見に行ってから、半年もすぎるとフォマーの代わりに新たな家庭教師が館に住み込むようになった。退官した元職業軍人である。
本来ならば中等学校を卒業した後、推薦状をもって帝国陸軍士官学校へ入学するのだが、オレグの場合それはできなかった。今から中等学校へ進学するにはあまりにも遅すぎるし、かといって貴族でもないから、家庭の事情を考慮して合格させてくれるとはとても思えない。
とにかく残る道はきわめて狭き関門を突破できるだけの、教養と体力と運動能力だった。ごくわずかだが、士官学校側が用意した選抜試験で入学できる特別枠がある。しかしいくら試験に秀でていても、肝心の礼儀がなってなければ即、不合格の印を押されてしまう。それだけ平民たちにもうけられた機会は小さなものだった。
……もし四分の一でも貴族の血が流れていれば。
アリサは日々、書物と教鞭に格闘しているオレグを見るたび、そう思わずにいられない。祖父母に貴族のものがいるだけで、門の開きが大きくなるらしいとオレグが言っていたからだ。
それにくわえ、十六歳になったオレグは家業も手伝うことになっている。たとえ職業軍人になったとしても、最終的には商会のあと取りになるのだから、当然主人としての仕事も覚えなくてはならない。このころから彼は「若主人様」と呼ばれるようになっていた。
それにひきかえ、アリサの生活は変わり映えしなかった。
毎日、毎日、下働きの仕事。母親の怒鳴り声。
しかしたった一つだけちがうことがある。
深夜まで勉強に明け暮れているオレグのために、夜食を作ってやることだ。遅くまで起きていなくてはならないから、アリサのほかに給仕をしたがるものはおらず、それが幸いして毎晩、顔を会わせることができた。
いつものように盆にパンと暖かいスープを乗せ、部屋に入ると難しい顔で辞書とにらめっこしているオレグがこちらを見た。
「こちらに置いておきますね」
アリサは執務机の隣にあるテーブルに、そっと盆を置く。そして「失礼します」と言おうとする前に、さえぎられた。
「ああ、ありがとう。それより、君こそ疲れてないのかい?」
「……」
アリサは笑いをこらえる。
「って、なんだ、その顔は?」
「だ、だってオレグ様……その言葉づかい」
不服そうに唇をゆがめ、オレグは頭をかいた。
「仕方ないだろ。このままじゃ、品性に問題ありで不合格になりそうなんだから」
「は、はい……でも……」
やはり笑いがとまらなくなってしまい、アリサは口元を手で覆った。
「あーあ。やっぱり俺には似合わないか。所詮、金貸屋だからな」
「まだなれないだけです。そのうち、きっと自然に話せるようになります。あたしもそうでしたから」
「アリサが?」
と、言いかけ、すぐに真顔にもどる。
最近はあまり意識してなかったが、二人の関係は若主人と下働きの娘。自然と言葉づかいも変わってしまう。
オレグもそれを感じたらしく、「下がってくれ」とだけ言って、それっきり話そうとはしなかった。
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「若主人様のおかえりだよ!」
玄関掃除の女がそう高らかに声を上げると、館はいっせいに賑わった。一年前、念願の帝国陸軍士官学校に入学するため、故郷を旅立ったオレグが帰ってきたからである。
一年ぶりに見る若主人様はどれだけ成長しているのだろう、と皆が皆興味津々だったが、まず再会したのは両親と弟妹たちであった。アリサも早く顔を見たくて、台所での炊事に身が入らない。
一年前出発するときは私服姿だったが、きっと凛々しい軍服姿で現れることだろう。地方ではまず見ることが出来ない姿だから、余計、胸が高鳴る。
手紙では好きなことを書いていたけれど、いざ顔を見たら何も言い出せなくなりそうだ。それに周囲の目もあることだし……。
つい一年前までアリサは読み書きができなかった。しかしオレグが入学許可証を手に、帝都から帰郷するや否や、次に教鞭を振るわれたのはアリサだった。深夜、周囲が寝静まったころになると、執務机で辞書とペン片手に何度も、文字を書いた。
遠くにいってしまえば、お互いの意思を伝える手段は文字しかない。なにがなんでも修得したかった。
意味がわからなくても本を眺めていた幼いころがあったためか、アリサが文字を覚えていくにはそう時間が要らなかった。今では辞書があればなんとか読み書きに不自由はしないまでになっている。
しかし母はそれを良く思っていないらしく、いつも隠れるようにして手紙を書いていた。
「そんなにそわそわするんじゃない。みっともないだろ!」
母の叱責でアリサは我にかえる。
そうだった。今日、再会できるとは限らないのだ。与えられた仕事をこなすのが、自分に課せられた役割なのだから。
今日の晩餐は豪華だった。若主人の帰郷を祝うから、普段は口にしない肉や酒まで、下働きの者たちにふるまわれたほどだ。しかし口にする場所は、いつもと同じ台所の隅だった。
先に母親を自室にもどらせ、残りの皿をひとりで洗う。さすがに今日は量が多いから、疲れがでてきた。早くすませて休もう。
そのころにはすでにオレグのことは頭から離れてしまっていた。
「アリサ」
懐かしい声。
振り返ると、あの灰色の瞳が自分をとらえていた。一年前より大人びて、表情が堅いように感じられたが、紅い軍服と軍帽が彼の凛々しさを引き出している。
「オレグ様……」
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
それだけでアリサの胸はいっぱいになる。
二人は以前、花火を見たときのように、自然と港に足が向かっていた。夜も更けているから、館のものはほとんど寝静まっている。途中、同じ下働きの男とすれちがったが、彼は何も見なかったかのように、二人の横を通り過ぎていった。
真夏の港は夜も活気がある。気候が良いから、潮風に誘われるように人々が散歩を楽しんでいる。帰港した船があったから、夜中だというのに屋台は賑わっていた。
「あのころとまるで変わらないな」
貨物船を仰ぎながら、オレグが安堵するように言った。
「ええ。最近は荷物が増えて、港も活気があります。ご主人様も大忙しで、早くオレグ様が家業を手伝われることを楽しみにされてます」
「そうか……」
かすかにため息の音が聞こえた。アリサは慌てて、詫びる。
「申し訳ありません。その……」
「いいんだ。私はもともとそのつもりで、約束をとりつけたのだしな。しかし私が故郷を離れてから、ますます家業が繁盛しているとは皮肉なことだ」
オレグの言葉は別人のような響きをふくんでいた。一年前のように率直な物の言い方をしない。言葉を選んでいるのが伝わってくる。
二人は倉庫が立ち並ぶ前までやってくると、並んで腰を下ろした。今宵は三日月。海面は小さな金の光を反射して、波打つ。
オレグは上着のポケットから、玉子の大きさぐらいの瓶と小さな包みを取り出し、アリサに手渡した。
「これは?」
「ああ、つまらないものだが、よかったら受け取ってくれ」
「いいんですか?」
「もちろんさ。そのために私はここに帰ってきたのだから」
嬉しさで胸がいっぱいになり、アリサは大きくうなづいた。もちろん、ありったけの笑顔とともに。
小さな包みを開けた。中には透明な緑の小石がついた首飾りが入っていた。取り出し、月光にかざすと、泡のような光がはじける。
「綺麗……」
「気に入ってくれたか?」
「ええ。あのときの花火みたい」
「私もそう思ってこれを選んだ。あの夜、おまえが同意してくれなかったら、私は一歩を踏み出せずいたかもしれない」
「そんなことないです。オレグ様だから、ここまでこれたのです。手紙にだって、いつもたくさんの講義や訓練のことばかりで、とても大変なのでしょう?」
オレグは首を横に振った。
「いや、おまえのほうこそ毎日、あんな狭い台所に閉じ込められて、気が休まらないだろう。私たちの世話をしてくれるものがいるから、私はこうして好きな道を進めた。感謝しているのはこちらのほうだ」
アリサは我が耳を疑うような気持ちになっていた。
以前の彼ならこんな言葉、口から出てこなかったはず。何もかもが当たり前で、ただ後を継ぐのが嫌だから、士官学校へ進学した。しかし、帝都での生活が彼のなかの何かを大きく変えていったようだ。
それだけ大人になったということだろうか。
気を取り直すように、アリサはもうひとつの瓶の蓋を開けた。薬草の匂いがする。
「あかぎれに効く軟膏だ。帝都の主婦ご愛用の品らしい。薬屋に行ったら、しきりにそれをすすめられた」
「嬉しい。あたしがあかぎれで悩んでいるの、ご存知だったのですね」
「夜食を運んでいたおまえの指先が、忘れられなかった」
「オレグ様……」
アリサの手が不意に握られ、瓶が転がり落ちた。慌てて拾おうとするが、両手は大きな手に覆われたままだ。
ゆっくりと灰色の瞳がちかづいてくる。お互いの息を頬で感じるほど、顔が間近にあった。
いけない!
アリサは顔をそむけた。
「いけません。私は下働きの娘です……」
「アリサ……」
両手が離れた。二人は視線を海にもどし、しばらく無言で波の音を聞いていた。
アリサは転がった瓶を手にし、蓋を閉めるとエプロンのポケットに忍ばせる。
母親が勘付く前に、そろそろもどったほうがいいかもしれない。
無言のまま立ち上がろうとしたら、海面を見つめたままのオレグが言った。
「おかしな話だと思わないか? ここでは私は若主人と呼ばれているが、帝都にもどれば下賎の輩だと陰口を叩かれる。どんなにやつらを追い抜いても、だ」
返す言葉が見つからず、アリサは黙って聞くことしかできない。
「ただ血筋が違うだけで、どうしてここまで侮辱されなくてはならない? 見返してやろうにも、軍人になれば嫌でもあいつらに頭を下げる生活だ。矛盾している」
「そんな……」
「やつらがああだから、帝国はいつまでたっても貧富の差が激しい。一部の特権階級の連中のために働いているようなものだ。頭ではわかっていたが、いざ、ともに生活するとなると、反吐が出そうになることがある」
「……」
「俺は下賎の輩じゃない。オレグ・リマンスキーだ」
転がっていた小石を手に取ると、オレグは立ち上がり、それを思いっきり海に投げつけた。音もなく石は海中に落ちていく。
「まるで俺みたいな石だな。いくら叫んでも、所詮、大海のなかのクズだ。やつらの嘲笑に呑まれるだけの」
波は繰り返し打ち寄せ、彼のその言葉をも呑み込んでいくように引いていった。